アニメ映画『すずめの戸締まり/新海誠』感想・考察レビュー
今回視聴した映画『すずめの戸締まり』についての感想と考察をまとめていきたいと思います。
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感想・考察
「君の名は。」「天気の子」に次ぐ、新海誠・川村元気・田中将賀氏らが組んだ第3の劇場作。
劇場でようやく観ることができましたので、興奮冷めやらぬうちにレビューを。
まず全体的な印象から言うと、これまでの新海監督作品と同じく「残酷でありながらも美しい、それでいて複雑難解」な作品であったというのが率直な感想です。
鑑賞後も余韻とともに、何度も何度も、内容を反芻しながら、ようやく理解が追いついて来るような、多重層で奥行きのある構成になっているように思いました。
「表層的」な部分から。
まず、改めて感じたのは、新海監督の「環境音に対するセンサーの張り方」が凄まじいという点。
「靴下で歩く音」、「ブーツで歩く音」、「錆びた階段の上を歩く音」、「フローリングを歩く音」、「ぬかるんだ地面を歩く音」など、足音一つとってもこだわり抜かれていたように思います。
他にも「散らかった本を立てたり並べたりする音」、「歩くたびに鳴る鍵の音」、「高速道路の溝(ジョイント)の上を車タイヤが撫でていく音」、「錆びついた自転車のペダル音」など、慌ただしい日常の中、意識の蚊帳の外で過ぎ去っていく音たちが克明に描かれる点に関心しました。
また「音」だけで無く、「就寝前の充電器の刺さったスマホ」、「トンネルの暗がりで子供たちが口開けたまま寝ているカット」など、視覚的な日常風景も、余さず描き出されているなと思いました。
そういう点を踏まえ新海監督は、「日常を切り取る職人」だなあ…と改めて監督の個性を感じさせられました。
「裏層的」な部分としては、「鈴芽が4歳の時に死亡している」という、ネットでもちらほらと散見されるネガティブな説を推したいと思います。
細かな説明はネットで考察などが出回っているので省きますが、確かに現実世界というには、「しゃべる猫」や「動く椅子」など、不自然なファンタジー描写が多かったというのも、16歳の鈴芽の生きる世界が現実では無く、死後の世界という大きな根拠になっていると思いましたし、なぜ鈴芽にだけ、ミミズが見えるのかという事にも特に言及されておらず、それは死後の世界を彷徨う彼女が、成仏の旅へと赴く、大きなきっかけであると解釈すれば、怖いほど辻褄が合ってしまうのも、死亡説に拍車を掛けているように思いました。
その解釈からすれば、「長い時間、死後の世界とコンタクトできない」草太が、死後の世界にある椅子を依り代として、活動しようとするロジックも説明できる。お腹が空かないという設定も、死者の世界である事の隠喩、椅子なのに温かいという描写も、迷い込んだ生者ゆえに体温があるとも解釈できる。
少しずつ目覚めが悪くなって、氷漬けになりながら「時間がない」と草太が語るのも、「死後の世界と繋がりが薄くなっている」という自覚から来るセリフだったのではないかなと。
他にも鈴芽サイドでも不可解な点がいくつもあった。東北の自宅下で見つけた日記が、黒く塗りつぶされていたのも、続くはずだった日常が死によって断絶された事を意味し、黒く塗りつぶすという作業も、「死という真実を塗りつぶしにした」と解釈できるなと。また、冒頭の幼少の鈴芽の荒い呼吸も、津波に飲み込まれた瞬間を抽象的に表現しているのでは無いかなと、振り返ってみるとゾッとするぐらい辻褄が合う。さらに、最後に草太が鈴芽に羽織らせる服も、どことなく死者の”白装束”を連想させるようでした。
すると、鈴芽と共に過ごしていた「環」や、途中で出会う「芹澤」なども死者だったという解釈もできます。
友人・芹澤が不満げな態度で初登場する描写も、自分が死んで、もう決してなれない教師の仕事を、「閉じ師」という家業と両立させて中途半端に向き合おうとしている草太の姿勢に腹が立っていたのではないか?と解釈できます。スポーツカーの屋根が壊れていたり、エアバックが飛び出る描写からなども、芹澤がなんらかの車の事故などで死んだ事を暗示しているのではないか?とも捉えられました。
環も同様に、九州という所在地から、昨今起こった九州地震などで亡くなった人物なのではないか?という残酷な解釈も成り立ちます。
他にも道中で出会う全ての人々も、各地の災害に紐付けされている事からさまよう死者たちなのではないかと考えました。
そして草太が「要石になる」という設定も、「かりそめの死後の世界で生きる人々の真実に蓋をする」という役割を担おうとしていたのではないのかなあと解釈しました。しかし、草太の優しさを抜き取った鈴芽は、自分の死を受け入れて成仏の道を選んだのではないのかなと。
常世に繋がれる扉が「ひとつしか無い」という設定も、成仏するには死んだ地に戻る必要がある事の暗示なのではないのかなと思いました。
だとすれば、草太の「キミは死ぬのが怖くないのか?」という繰り返し現れるセリフにも、草太の「世界の真実を隠そうする心情」がこもっているのではと思いました。
また、クライマックスの草太の言葉で、「かりそめの世界と分かっていても少しでも生きていたいんだ!」みたいなセリフがあったのですが、まさに死後の世界、生者の世界、その両方を知る者だからこそ言える、深みのある言葉なのではないのかと推察しました。
ここまでネガティブな視点から、推察をダラダラと書かせていただきましたが、ポジティブな視点に立ち返ってみれば、「死後の世界に迷い込んだ少女が、恋をしながらも、過去の悲しみを乗り越えて旅を終える」という10代20代の求めるラブストーリー、成長物語として今作を捉える事もできます。
なにより今作は、あくまでエンターテイメントなので、ポジティブ・ネガティブ(子供な視点・大人な視点)どちらの解釈を取っても辻褄が合って楽しめるような、あらゆる観点を予期網羅した視点から制作されている作品ではないかなと思いました。
そして、これまで震災に関する多くの資料に目を通してきた新海監督なりの「犠牲者に対する壮大な鎮魂歌のような側面」、「興行を意識した普遍的なストーリーテリング」とが見事に融合した、「生と死の世界の混濁を旅する」実に儚くも神秘的な物語でした。
配信サービス
現時点(2022/11時点)で「すずめの戸締まり」配信のサービスは以下の通り。
原作・DVDリンク
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